新スタジオの詳細は、2015年6月に
「及川スタジオ(仮)に見る業務スタジオの本流2015」をエントリーしているので、そちらも併せてお読みいただくとより良いと思う。2015年現在の最新機材の組み合わせではデジタルオーディオデータはネットワーク経由での送信なので、ブースとコントロールルームをつなぐケーブルはイーサネットケーブルが数本とアナログマルチケーブルが1本とウルトラシンプル。それがオーディオインターフェイスを兼ねたデジタルミキサーに接続されているので、ヴァーチャルパッチベイ操作に慣れる必要はある。これが最大の関門と言えば関門か。
加えてスタジオの心臓部たるDAWが、私の使い慣れていないProtoolsなので、その操作にも慣れる必要がある。おっさんになると新しいことを覚えること自体が苦痛なのだが、必要に迫られて操作しているとそれでもなんとか覚えられるようだ。PT操作については光明が見えてきた。
だがこのスタジオでの作業でもっとも大きな驚きと喜びは、信頼できる友人とあーだこーだ言いながら音楽作品に向かい合うプロセスを味わえることであった。DAWによる音楽制作に慣れれば慣れるほど孤独な作業が中心となり、共同作業の喜びから遠ざかってしまう。「誰かと」という要素は音楽を作る(録音でも生演奏でも)上で、とても重要な要素だというのに。
「このEQ、どうかな?」
「ちょっとやりすぎじゃね?」
「じゃあこうでは?」
「うん!良くなった」
冒頭に書いたとおり、及川と私は出会ってから早30年である。そんな旧友と今でもトラックのEQのかかり具合について意見を交換できるなんて、すごい体験だと思う。私と及川や近しいミュージシャンが集まって、こういう作業は20代の頃からよくやっていた。当時は未完成のまま放り出すものの方が多かったが、あれはあれで貴重な体験だった。良しとするできあがりのレベルはその頃とはケタ違いに跳ね上がってしまったが、作業とそこに生まれる会話の本質は何一つ変わっていない。30年経てもその作業のひとつひとつに変わらないフレッシュネスを味わえたことがとても嬉しかった。
ここで新しい音楽を作っていけるということは、実に贅沢な話だ。