2011.05.30 Mon
KORG KRONOSはKORGの集大成か
ヤマハミュージック東北仙台店のSさんよりお誘いあり。KORGの新しいフラッグシップシンセKRONOSの試奏に行ってきた。KRONOSの詳細はこちら。
結論から書こう。全方位的に弱点が見つからない。Sさんに「ウィークポイントは?」と意地悪い質問をしてみたが、ふたつしか思い当たらないという。そのふたつとは
1.起動時間がハンパ無く長い
2.重い
である。なんとスイッチを入れてから演奏できるまで2分半かかるらしい。対バンイベントなんかじゃハラハラするだろう。記憶媒体はSSD(30GB)だというから、サンプルのサイズを考慮しても、やはりKRONOSはPC寄りの機械だと言っていいと思う。この起動時間は命取りとは言わないが、本番とか転換時間に思いがけぬトラブルで再起動する時はおっかないだろう。重さについては後述する鍵盤のことを考えれば仕方ないと言える。が、昨今の電子鍵盤楽器のトレンドは「軽量」らしいので、気になるところではある。試奏したのは73鍵モデルだったが、こいつの重量が20.3kg。確かに女子ひとりでは運べないだろう。ただしこの2点に関しては機能や弾き心地を考えれば充分トレードオフできる。さらに重箱の隅を突いてみれば個人的にはあと2点。レコーディングやサンプリングのためのマイク入力があるのだが、このコネクタが4/7のフォーンコネクタのみというのが惜しい。3Pのバランスコネクタだったらもっと良かったのに。またフロントパネルのロータリーダイヤルがやや小振りなのも惜しい。総じてスイッチ類はヘタリが早そうな印象がある。こちとらM1でけっこう痛い目を見ているからなおさらだ(笑)。
それ以外には文句の付けようが無い。まず音から行こう。ピアノサウンドはおそらくノールーピング。必ずしもそれがベストでは無いと思うが、鍵盤と音色・音量の関係が生理的に非常に納得できるものになっている。また古くはSG-1の頃からあったいかにもKORGのPCMピアノ音源に感じたクセのようなものはほぼ無くなり(完全一掃ではない。KORGの個性と言える範囲)、オールマイティに使える印象だ。特にmpあたりのヴェロシティで鳴るサンプルが色っぽい。プラグインピアノ音源の優位性を疑いたくなる出来である。当然D/Aも良いものを奢っていると思われる。エレピ、クラビ、オルガンと言ったクラシック電子楽器系もぬかりない。特にオルガンのプログラムはリアリティと即戦力を非常に高度なバランスで実現しており、弾く気にさせるものが多い。エレピにかかるモジュレーション系のイフェクトも音痩せなど無く、艶がある音になっていた。
短い時間での試奏だったので搭載する音源全てを鳴らしてみたわけではないが、この段階でS90XSを鼻の頭分くらいリードしている感がある。MotifにしてもSにしても、YAMAHA製品は電子的プロセス(マイクで拾ったりイコライザなど)前の楽器の生音に忠実であろうとしているのに対し、KORGは弾いた瞬間にプレイヤーをその気にさせるように気を配っている感がある。素のリアリティ追求よりもプレイヤーが「こう鳴ってほしい」と思った通りに鳴る印象がある。オルガンプログラムにそれは顕著だ。アナログシンセ系のプログラムはSシリーズが追いつけるレベルではない。確かにヴァーチャルアナログなので冷たい印象はあるが、それでもまだ艶を感じる。KRONOSのアナログ系プログラムとSシリーズのそれを比べれば、本物と蝋見本くらいの差があろう。この辺は圧倒的に「電子回路っぽい音」なのだ。
鍵盤はどうか。RH-3と言う名のピアノタッチ鍵盤機構はストロークこそ浅めだが、重みと言い戻りのアクションと言い非常に自然でかつ弾きやすい。浅いストロークはオルガンやシンセシンセした音色の演奏にはむしろ好意的に見る事すらでき、この点は好き嫌いを超越してグッドバランスと言える。前述した本体重量もこの鍵盤実装のためなら我慢できるくらい秀逸だ。タッチセンス付きの液晶画面の反応速度も非常に速く、ほぼストレスを感じない。やや気になる事と言えば表示されるパラメータ数が多いため、狙った項目とは違う項目を選択してしまうことがある程度だろう。「ライヴ現場じゃそれコワイ」という方もいると思うが、そこまで細かく表示されるのはバンク内のプログラムをリスト表示したりあるいはエディット項目を選ぶ時くらいで、ライヴ本番にはセットリストモード(Sで言うところのマスターモード)があり、このモードで表示されるヴァーチャルスイッチはとても大きいのでその点も心配いらない。
多機能シンセサイザーの思わぬ盲点として、プログラム切り替え時の音切れ問題がある。だがKRONOSでは「サウンド・トランジション」なる機能に昇華してそれを解決した。リリースタイムが長めのパッドサウンドで試してみたが、これも完璧である。Aという音色からBという音色に切り替える時、Aでコードを押さえておいてBに切り替えるとする。すると鍵盤を押下げている間はAの発音が保持され、次に打鍵して初めてBが鳴り始める。リリースタイムも犠牲にされない。これはかつてのENSONIQ SQシリーズなどでは実装されていたが、それでも発音ボイス数を上回るとリリース部分がブツ切れになったりしたものだ。充分な発音数を得てKRONOSではその点も同時に解消されているのである。
シーケンス機能については全く未検証だが、オーディオとMIDIで16トラックずつ、計32トラックというからまず余程の作り込みが必要な曲でも無い限り問題になることもあるまい。ということで73鍵モデルで20万円台の半ばというのだから、かつてほぼ同じ金額でM1を買った私としては(Sさんもおっしゃるように)KRONOSはKORGのシンセサイザーの集大成と言えると思う。
ただアナログシンセに関しては、PolySixやMS-20のようなものをちゃんと物理的に回路を組んで現代のセンスでリビルドしてほしいとは思う。デジタル演算によるヴァーチャルアナログ音源はゆらぎが無い分アナログシンセに不可欠なワイルドさが足りない。音色のキャパシティは大きくなったのに、存在感は希薄なのだ。KORGはこれまでもシーケンサーを内蔵したオールインワンタイプのシンセにこだわってきたが、KRONOSからシーケンサーとヴァーチャルアナログをオミットし、デジタル音源の集大成としてパッケージしてくれれば個人的にはベストだった。アナログはアナログでちゃんと発振器からこだわって21世紀のアナログシンセを作って欲しいと思う。
結論から書こう。全方位的に弱点が見つからない。Sさんに「ウィークポイントは?」と意地悪い質問をしてみたが、ふたつしか思い当たらないという。そのふたつとは
1.起動時間がハンパ無く長い
2.重い
である。なんとスイッチを入れてから演奏できるまで2分半かかるらしい。対バンイベントなんかじゃハラハラするだろう。記憶媒体はSSD(30GB)だというから、サンプルのサイズを考慮しても、やはりKRONOSはPC寄りの機械だと言っていいと思う。この起動時間は命取りとは言わないが、本番とか転換時間に思いがけぬトラブルで再起動する時はおっかないだろう。重さについては後述する鍵盤のことを考えれば仕方ないと言える。が、昨今の電子鍵盤楽器のトレンドは「軽量」らしいので、気になるところではある。試奏したのは73鍵モデルだったが、こいつの重量が20.3kg。確かに女子ひとりでは運べないだろう。ただしこの2点に関しては機能や弾き心地を考えれば充分トレードオフできる。さらに重箱の隅を突いてみれば個人的にはあと2点。レコーディングやサンプリングのためのマイク入力があるのだが、このコネクタが4/7のフォーンコネクタのみというのが惜しい。3Pのバランスコネクタだったらもっと良かったのに。またフロントパネルのロータリーダイヤルがやや小振りなのも惜しい。総じてスイッチ類はヘタリが早そうな印象がある。こちとらM1でけっこう痛い目を見ているからなおさらだ(笑)。
それ以外には文句の付けようが無い。まず音から行こう。ピアノサウンドはおそらくノールーピング。必ずしもそれがベストでは無いと思うが、鍵盤と音色・音量の関係が生理的に非常に納得できるものになっている。また古くはSG-1の頃からあったいかにもKORGのPCMピアノ音源に感じたクセのようなものはほぼ無くなり(完全一掃ではない。KORGの個性と言える範囲)、オールマイティに使える印象だ。特にmpあたりのヴェロシティで鳴るサンプルが色っぽい。プラグインピアノ音源の優位性を疑いたくなる出来である。当然D/Aも良いものを奢っていると思われる。エレピ、クラビ、オルガンと言ったクラシック電子楽器系もぬかりない。特にオルガンのプログラムはリアリティと即戦力を非常に高度なバランスで実現しており、弾く気にさせるものが多い。エレピにかかるモジュレーション系のイフェクトも音痩せなど無く、艶がある音になっていた。
短い時間での試奏だったので搭載する音源全てを鳴らしてみたわけではないが、この段階でS90XSを鼻の頭分くらいリードしている感がある。MotifにしてもSにしても、YAMAHA製品は電子的プロセス(マイクで拾ったりイコライザなど)前の楽器の生音に忠実であろうとしているのに対し、KORGは弾いた瞬間にプレイヤーをその気にさせるように気を配っている感がある。素のリアリティ追求よりもプレイヤーが「こう鳴ってほしい」と思った通りに鳴る印象がある。オルガンプログラムにそれは顕著だ。アナログシンセ系のプログラムはSシリーズが追いつけるレベルではない。確かにヴァーチャルアナログなので冷たい印象はあるが、それでもまだ艶を感じる。KRONOSのアナログ系プログラムとSシリーズのそれを比べれば、本物と蝋見本くらいの差があろう。この辺は圧倒的に「電子回路っぽい音」なのだ。
鍵盤はどうか。RH-3と言う名のピアノタッチ鍵盤機構はストロークこそ浅めだが、重みと言い戻りのアクションと言い非常に自然でかつ弾きやすい。浅いストロークはオルガンやシンセシンセした音色の演奏にはむしろ好意的に見る事すらでき、この点は好き嫌いを超越してグッドバランスと言える。前述した本体重量もこの鍵盤実装のためなら我慢できるくらい秀逸だ。タッチセンス付きの液晶画面の反応速度も非常に速く、ほぼストレスを感じない。やや気になる事と言えば表示されるパラメータ数が多いため、狙った項目とは違う項目を選択してしまうことがある程度だろう。「ライヴ現場じゃそれコワイ」という方もいると思うが、そこまで細かく表示されるのはバンク内のプログラムをリスト表示したりあるいはエディット項目を選ぶ時くらいで、ライヴ本番にはセットリストモード(Sで言うところのマスターモード)があり、このモードで表示されるヴァーチャルスイッチはとても大きいのでその点も心配いらない。
多機能シンセサイザーの思わぬ盲点として、プログラム切り替え時の音切れ問題がある。だがKRONOSでは「サウンド・トランジション」なる機能に昇華してそれを解決した。リリースタイムが長めのパッドサウンドで試してみたが、これも完璧である。Aという音色からBという音色に切り替える時、Aでコードを押さえておいてBに切り替えるとする。すると鍵盤を押下げている間はAの発音が保持され、次に打鍵して初めてBが鳴り始める。リリースタイムも犠牲にされない。これはかつてのENSONIQ SQシリーズなどでは実装されていたが、それでも発音ボイス数を上回るとリリース部分がブツ切れになったりしたものだ。充分な発音数を得てKRONOSではその点も同時に解消されているのである。
シーケンス機能については全く未検証だが、オーディオとMIDIで16トラックずつ、計32トラックというからまず余程の作り込みが必要な曲でも無い限り問題になることもあるまい。ということで73鍵モデルで20万円台の半ばというのだから、かつてほぼ同じ金額でM1を買った私としては(Sさんもおっしゃるように)KRONOSはKORGのシンセサイザーの集大成と言えると思う。
ただアナログシンセに関しては、PolySixやMS-20のようなものをちゃんと物理的に回路を組んで現代のセンスでリビルドしてほしいとは思う。デジタル演算によるヴァーチャルアナログ音源はゆらぎが無い分アナログシンセに不可欠なワイルドさが足りない。音色のキャパシティは大きくなったのに、存在感は希薄なのだ。KORGはこれまでもシーケンサーを内蔵したオールインワンタイプのシンセにこだわってきたが、KRONOSからシーケンサーとヴァーチャルアナログをオミットし、デジタル音源の集大成としてパッケージしてくれれば個人的にはベストだった。アナログはアナログでちゃんと発振器からこだわって21世紀のアナログシンセを作って欲しいと思う。
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