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暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

2013年12月 | ARCHIVE-SELECT | 2014年02月

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Keyboardist Union@仙台 Live Vol.13・無事終了

Keyboardist Union@仙台 Live Vol.13、無事に終了した。今回もとてもヴァラエティに富んだ内容になった。

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わたしたちが主宰者です。L:橋元成朋、R:服部暁典

Keyboardist Union@仙台(以下KeyUni)を客席で見ていて毎回に思うのは、「こうしちゃいられない」と言う焦燥感である。どんな優れたミュージシャンにだって「隣の芝生が青く見える」場面というのはあると思うが、私の場合はそんな高尚な話では無い。何度もこのブログには書いているが、誰か鍵盤奏者にKeyUniへの参加をお願いする場合、「ノルマがあるし演奏時間にも制限があります。でも内容には一切バイアスはかけません。今あなたが面白いと思うこと、演奏したいと思うことだけやってください」と言ってきた。例えばパーマネントに活動しているバンドがある人にも、ソロなら違うアプローチでやってみたいと思うことはあるだろうし、こういう機会が無ければバンドなんか組まないという方もいるだろう。加えて鍵盤奏者ばかり出演するステージである。言葉は不穏当かもしれないが、「如何に皆を出し抜くか」と考えて行けば、結局本当に自分の中の「ホントウはこう言うの、イッカイやってみたかったんだよな〜」や「自分が他人と差を付けられるのはこのポイントしかない」というものを出してくる。

すると奏者各人の表現は必然的に個性的にならざるを得ない。大抵の場合「こういうことやらせるとあの人には敵わないわ〜」か「まさかそんな演奏するとは」というものになる。皆真剣である。そういう演奏が集まるステージが面白くないわけがない。KeyUniが鍵盤奏者の表現意欲のスイッチになれば良いと思うし、現実にそうなっているケースも多い。そして私の場合、そういう風に人に語れるものはあるか?、誇れるものはあるか?と自問することになる。「こういしちゃいられない」のである。

冒頭、「とてもヴァラエティに富んだ内容になった」と書いたが、こういうわけだから、ある意味それは当然なのだった。今回の出演者は皆過去に数回出演してくださったことがある方たちだったが、全員が前回とは違うアプローチであった。そして考え抜かれた演奏は、以前よりも濃いものだった。画像はiPhoneで服部が撮影したもの。公式写真は後日改めてアップする。

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竹野靖子
エレクトーンデモンストレータという表の顔(裏の顔があるのかどうか知らないが)の竹野がYAMAHA D-DECKを持ち込んだと言う事は、それだけで本気度が伺える。チャレンジというよりも、如何に深化しているかを見せつけるステージだった。ステージ前半を「宇宙旅行」に見立てて様々にアレンジした名曲の数々を聴かせる進行は、MCを含めて完全に「本業」であり、もはやひとつの世界である。まじめな彼女はサウンドチェックでもMCを再現していたが、その場にいた他の出演者がすっかり盛り上がってしまい、いっせいにカメラを向けていて、竹野が苦笑していた(笑)。服部個人としては宇宙旅行の帰還の際、宇宙戦艦ヤマト挿入曲「無限に広がる大宇宙」が聴けただけで胸が一杯である。ちなみにこの曲名、転換時のMCで竹野に曲名を尋ねたら「ど忘れしました」と言われたので、この原稿を書くにあたり自分で調べたものである。

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鈴木雅光(Tribute to ECM)
幼少期にECMレーベルの音楽に夢中だった鈴木が、これまた直球ど真ん中でその世界の再現に挑んだ大いなる挑戦。その目論見は非常に高いレベルで実現していた。鈴木はピアニストというよりも作曲家なので、音楽を楽器からではなく要素として捉えるのだろう。従ってオリジナル作曲者の意図するものを音楽的に解体・咀嚼して演奏しなおす。従ってそれはコピーやカバーという概念を超えた「解釈」となり、結果的にオリジナルにとても近いものになる(今回はそれが目的だから)。その再現っぷりは、メンバーの行方基朗(ドラマー)の演奏を変えたほどである。行方曰く、「サウンドチェックの段階までけっこう自分なりに演りやすいように変えて叩いていたりしたんですけど、どうにもしっくりこなくて気持ち悪かったンすよ。でもうこりゃダメだ、ちゃんとオリジナルの音源みたいなアプローチでやろうって切り替えて。そしたらすっごくしっくり来たンすよね(行方の口調で読もう!)」だそうである。同じく行方が「雅光さんの演奏って、キース(・ジャレット)の曲をやるとホントにキースみたいに聴こえるンすよ(行方の口調で読もう!)」と言っていたのがとても印象的だった。作曲家と演奏家の脳の違いをわかりやすく実演されたようで、演奏家脳の私には非常に興味深かった。加えて鈴木のバンドTribute to ECMのメンバー、行方、森木啓太(ベース)、伊藤まこと(すみません、漢字がわからず)(フリューゲル・ホーン)の演奏も特筆に値する高品質なものだった。

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ひでちう(かなちう)
字面で読むとわかりづらいが、ひでちうさんがかなえさんとやっているピアノ・ヴォーカルデュオのユニット名が「かなちう」である。ひでちうさんはこれまで自身のひとり打ち込みテクノ弾き語りと、ちゃんもつ、せりかと組んだハード打ち込みプログレユニット「ちゃんせりちう」と、圧倒的ヘンタイスタイル(褒めてます。念のため)での演奏を見せつけられてきたので、個人的には「は?ひでちうさんが?歌の人とデュオ?」とハテナマークだらけだった。が、ひとたびその演奏を聴けば納得。実直で情感豊かなかなえのヴォーカルを、これまた至極まっとうなピアノ伴奏スタイルで盛り上げる直球どストライクなユニットだった。絶妙な選曲のカバーありオリジナルあり。冒頭の感想とは違う意味で「あぁ、こういう骨太なユニット、オレもやりてぇなぁ」と歯ぎしりしてしまった。ひでちうの内面宇宙は底知れず深い。

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橋元成朋a.k.aちゃんもつ(さいなめちゃん)
企画打合せの席で出演が決まったちゃんもつが「何やろうかなぁ」と言っていたので、ふとひらめきで「齋藤寛と行方基朗のふたりのパーカッションとちゃんもつさんでめっちゃヘンなインプロヴィゼーションとかやったらいいさ!ユニット名は『さいなめちゃん』で」と進言した。その場ではそのネーミングだけで大笑いして盛り上がってしまい、音楽的な内容はまったく吟味されずにそのまま当日を迎えたらしい(笑)。私は橋元の音楽を(折々にだが)もう随分長いこと聴いてきた。その経験の中でも、当夜の演奏は度外れて素晴しいものだった。ベーシックにあるのは橋元の作るシンセリフやブレークビーツ的な打ち込みリズムシーケンスである。が、ここに齋藤と行方のパーカッションが加わることによって、ものすごく有機的なものに変化する。ある意味で生演奏と打ち込みの理想的なミクスチュアであり、私は生まれて初めてシーケンスによる音楽によって脳内ドーパミンが噴出するのを自覚した。2時間くらい演ってほしかった。

最後のセッションは「DayTripper」。もちろんビートルズの名曲である。鈴木雅光が事前にアレンジ譜面まで起こしてくれる献身を示してくれ(譜面配付のメールに橋元が「なんなんでしょう、この安心感(笑)」と返信していた(笑))、これもまたいつもどおり楽しいものになった。お越しいただいたお客様、本当にありがとうございました。出演者、関係者諸氏、本当にありがとうございました。特にLivehouse ennのスタッフのみなさん、取り分けKeyUniの制作を担ってくれている星雅晴君に特別の謝辞を捧げたい。

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おまけ:楽屋風景

服部個人の演奏だった幕間演奏とシンセ漫談についてはエントリーを分ける。本文中の敬称は省略させていただいた。
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