渋谷さんは芸名で本名は若栁誉美さんという。このエントリーでは以下よしみさんと書く。活動15年目を迎えた彼女が初めてのソロライヴを行うにあたって、パートナーに選ばれたのは光栄である。上記演目の中の「ほくろの手紙」という川端康成の短篇小説の朗読に作曲と演奏で参加した。
以前このブログに、リハーサル初期の頃のアプローチを
書いている。繰り返しになるが、私はミュージシャンとして小説を読んだその解釈を音として表出させるよう心がけた。聴いている人にはあまり関係ないことかもしれないが、作品のための伴奏ではなく、インスパイアされた別の音楽作品になるべきだと考えアプローチした。従って、当日ステージに現れるのは「作品」・「読み手」・「弾き手」による三角形で立ち上がる「何か」であるべきだ。そうありたい。これはシアターグループOCT/PASS主宰者石川裕人さんとの作業で得たアプローチである(演劇の場合「読み手」=「演じ手」ということになる)。これは多分達成されていたと思う。お客様からの感想に、よしみさんとも私とも違う解釈を述べられた方がいた。そしてその解釈に私はうなった。うーむ、そう聴くかぁ。その視点も演奏に取り入れたかった!遅いって。こういう解釈のズレを楽しめる程度には、よしみさんも私も作品を念入りに読んだとは言えるだろう。
リハーサル中の具体的な作業は、実は音を出すタイミングや音量バランスの調整ではなかった。いや、もちろんそういうことも試しに試したが、リハーサルのほとんどは文章をどう解釈するか?をすり合わせる作業だった。「この時の主人公の心情はきっと○○だったに違いない」「いや、そうではなく△△だったのでは?」みたいなことである。もちろん結論は出ない。出ないが「あ、そういう考え方もあるか…」という、自分に無い視点を得られることが、最終的に演奏に落とし込まれていく。作品の中間部分でインプロビゼーションパートがあったのだが、その音の置き方にはこういう読み解き、解釈が影響すると思う。
同時に、朗読者の声、読みの速度、すなわち「調子」に合わせることが、弾き手としては重要だということを本番中に再確認もした。ふと気がつけば、曲をとことん解釈する、相手の音をまず聴く、相手と自分の演奏を合わせていく…なんてことは、普通に音楽を演奏する時の基本事項ではないか。朗読とピアノ(この日はS90XSでピアノプログラムを使用)と聞けば、まるで「異種格闘技」のように思えるかもしれないが、少なくとも普通に訓練されたミュージシャンなら誰でも楽しめると思う。左様、とても楽しかったのである。会場となったキジトラ珈琲舎さんの店内は、良い意味で狭い。お客様との距離が親密である(よしみさんは生声で読むことにこだわるので、必然的に大きな会場ではやれない)。そういう意味での緊張感はあったが、振り返れば今までのリハーサルでのどのプレイよりも一番デキが良かった。演奏してる最中に相手とのシンクロを実感できて、自分の演奏にその実感がフィードバックされていく瞬間は、音楽演奏の醍醐味(のひとつ)である。楽しいに決まっている。
よしみさん、声をかけてくださったありがとうございました。とても楽しかったです。ご来場いただいたお客様、キジトラ珈琲舎関係者のみなさん、会場運営を手伝ってくださった100グラードの斎藤涼平さん、感謝いたします。
※公演イメージ画像はよしみさんから、公演中の画像はすべてお客様がFacebookに掲載されたものから拝借した。