暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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レビュー:「Bon Voyage」Dazen Notes

親しくしているふたりのミュージシャンがユニットを組んで活躍している。その名もDozen Notes。鍵盤奏者の齋藤めぐむ君とクラリネット奏者の金田祐介君のふたりだけのユニットである。夏に発売されたミニアルバム「Bon Voyage」を購入した。ご紹介したい。

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『Bon Voyage』 ¥1,000 (税込み)

今さらおふたりの技量についてあれこれ書くのは止めよう。その点に関して何も意識する必要は無い。その上でこのアルバムを聴いて私が最初に驚いたのは、クラリネットという楽器の表現力の高さだった。いや「表現力」なんていう曖昧で便利な言葉では足りない。要は「歌っている」のだ。歌いっぷりに驚いた。ピアノ(シンセサイザーによる電子音)とクラリネットという必要最低限のデュオだが、むしろそれが気持ち良い。クラリネットがこんなに表情豊かにメロディを歌うのを聴くのは、それだけでも快感である。

当然のことながらピアノの立ち位置も絶妙で、単なる伴奏以上独善的未満の「付かず離れず」っぷりの見事な演奏である。齋藤君はエレクトーン奏者でありながら様々なバンドのキーボーディストとして本当にあちこちでお名前を見る。そういう経験がプラスに働いているのは間違いない。

その上でプライベートでも親しいらしいおふたりの親密なムードが収録曲に説得力を与えている。何と言うか、アルバム冒頭から「寛いでいるホームパーティ」にお呼ばれしたようで、「シンプルですけどゆっくり楽しんで行ってね」という(音楽的)態度がしっかりと聴き手に伝わってくる。正直収録曲が5曲って少ないんじゃないかという気もするが、同時に「もうちょっと聴かせてよ〜」という辺りが丁度良いとも言える。ありきたりだが、こういう部分も絶妙である。

その収録曲はある時は饒舌、ある時は静謐。思わず笑顔になる瞬間もあるし、目を閉じて聴きたくなる瞬間もある。割りと元気な印象の「TAKE OFF」と「あの風が吹いたら」を除いた3曲は、どれも深く自分の記憶の中に沈殿した何かを、再び愛おしく取りだして向き合うことを促される。メロディも演奏も語り過ぎていない。この世界を達成できることが、音楽に携わる身としてうらやましい。

このふたりは今後も長くタッグを組んでいくだろう。だから少々耳の痛いことも書く。このアルバムがしっかりとした環境で腰を落ち着けてレコーディングされたことは喜ばしいが、これだけ説得力のある曲と演奏なら生ピアノで聴きたい。特にクラリネットの存在感が強烈なので、生ピアノで渡り合ってほしいと思ってしまう。むろんシンセサイザーのピアノプログラムでアプローチすることになった制作上の経緯は想像に難くない。それでも敢えて書く。また同時にスタジオレコーディングだからこその「過剰な冷静さ」も何度も聴くうちに気になると言えば言える。何度もテイクを重ねて隙の無い演奏を収録したくなる気持ちは痛いほどわかるが、百戦錬磨のおふたりなら敢えてライヴレコーディング(観客のいる前での演奏)でも良かったのではないかと思う。音質よりも優先する要素が彼らの曲にはある。そして同時に、そういう環境でなければ到達できない演奏的境地があるのだ。常に100%であることが正解とは限らない。

特に「TAKE OFF」と「あの風が吹いたら」については、ピアノの演奏にやや考え過ぎとも言える瞬間がある。それは技術の問題ではなく、1分1秒のすべてに目を光らせることができるスタジオレコーディングならでは現象ではないかと思う。ピアノのグリッサンドやボサノバ風味のピアノのバッキングなどは、むしろ「どこ吹く風」くらい力が抜けている方が曲全体への馴染みが良い場合がある。スタジオだとその感触に何度もトライして完璧なものを残すことができるが、実はその力の抜き加減を見極めるのは難しい。だがライヴステージだとまったく自然にそれが出来てしまうことがほとんどだ。入魂の4〜5分を収録するためにたくさんのステージを費やしても=でき上がるのに時間がかかっても、これらの曲をふたりの「良い意味で脱力した」演奏で満たされた録音作品で聴けるなら、私は我慢して待つ事ができる。

ようやく最初のアルバムができ上がったのに、もう次の注文を出してすみません。改めて書くが、これは電子顕微鏡で何度も見直したナノレベルの事象である。昼下がりの午後に、一旦スイッチを切ってのんびりしたい時に、少し小さなボリュームで部屋に流れていたら幸せな気分になれるアルバムである。金田君、齋藤君、ありがとう。
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