暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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レヴュー:"MOMENTUM" Jamie Cullum

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2000年代になって一番の驚きはJamie Culllumを知ったことである。ジェイミーの歌を初めて聴いたのはトゥーツ・シールマンスのアルバムで、彼はゲストヴォーカリストのひとりだった。その「one more for the road」という曲をまったく予備知識無しに聴いた時、「この渋いヴォーカルの人はきっとラスベガスあたりのホテル営業(ディナーショーのことよ)の重鎮で、アメリカのショウビズ界で揉まれに揉まれた大ベテランのおっさんだろう」と思ったものだ。何しろ豊饒にして自信たっぷりで、余裕綽々の歌いっぷりだったのだから、当時の自分が勘違いしても無理なかろうという気になる。

あまりにそのヴォーカルが印象的だったので、本人名義のアルバムは無いか?とネットで探したところあっさり見つかったのだが、ジャケを見てもあれこれテキストを調べても自分の思っていたジェイミー像とはまったく違うのに驚いた。なんとジェイミーはイギリスの若者ロックアーティストだったのである(当時)。半信半疑でアルバム「Catching Tales」を買い求め、「やっぱりこの人だ」と驚きつつそのゴキゲンな音楽に完全にノックアウトされた。今回はそんな彼の今のところの最新アルバム「MOMENTUM」について書こうと思う。

ジェイミーはそもそも酒場でジャズピアノや弾き語りをして修行を積んできた「バリバリの叩き上げ」らしいので、大前提として音楽の咀嚼力が素晴らしい。また楽器演奏(主にピアノなどの鍵盤楽器)の腕前も中々に素晴らしい。彼の作る曲はジャズとかロックとか、そういう「狭義の意味でのジャンル」というものを考えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど自由でわかりやすい。こういうものを総称してポップスと言うのかもしれないが、素晴らしいアーティストの共通の特徴として「本人自身がすでにひとつのジャンル」と言うレベルにまで到達しているかもしれない。

今回書く「MOMENTUM」はジェイミーの5枚目のオリジナルアルバムで、大きな傾向としては「Catching Tales」〜「The Pursuit」の流れを汲んでいる。これら2枚のアルバムのところどころで見られた作曲や編曲技法を縦横無尽に使い倒していて、これが集大成なのか発展途上なのかは次の作品を聴くまでわからない。しかし現在のチャートものなどと言う音楽とは段違いにミュージシャン寄りの発想が多く、楽器演奏者にはそこがたまらない魅力だし、ファンには「安心のジェイミー印」と言うことが言えよう。

しかしマンネリとか拡大再生産ではなく、特にこの「MOMENTUM」というアルバムでは、アレンジ上の成熟が見て取れる。その最大の特徴が「ほとんどシンセサイザーを使っていない」ということである。良く聞き込めば、実はたくさんシンセも鳴っているのだが、そのほとんどがうっすらと漂う空間系の音色やノイズっぽいものだったり、果てはレゾナンスと閉じ気味のフィルターによるパーカッシヴなもので、前面には出てこない。もっともリズム周りではサンプラーやプラグインシンセと思われる音が大量に使われていて、生ドラムとの交じり具合も繊細にして大胆だ。またほとんどギターの音がしない。アレンジ上必要とされる器楽ソロもピアノだったりオルガン(しかもファルフィッサ)だったりと徹底している。ストリングスセクションも生演奏と思われ、非常に贅沢な作りである。

要約すると生楽器を中心とした非常に有機的な音色がアルバム全体を支配しているのである。そして恐らくマスタリングの段階で、アナログテイストのダイナミクス処理を施されているようだ。ヴィンテージリミッターをがっちりかけるとか…。現代の作品らしく充分に低音もありつつ、心地よいサチュレーション感が漂う音。「MOMENTUM」の最大の特徴はこのサチュレーション感だ。パフォーマスンもアレンジも、レコーディング技術的にも「飽和感」がある。つまり今現在のジェイミー・カラムの「行くところまで行ってしまった」手応えみたいなものが、作品のありとあらゆる部分に満ちあふれているのである。

1.The Same Things
ハードにドライヴするチャールストン的ナンバー。前作「The Pursuit」収録の「You and Me are Gone」で味を占めたのね的なお得意の曲調。ウッドベースのグイグイ前へ出るグルーヴが素晴らしい。

2.Edge Of Something
さすが英国人ミュージシャン。いつ007映画からオファーがあっても良いようにそれっぽい曲を作っておいたのか?と勘ぐりたくなるくらいボンド臭漂うかっこつけナンバー。唯一ギターらしいギターが聴こえる曲。ブロッコリさん、007シリーズの次作サブタイトルはこれでどうですか?

3.Everything You Didn't Do
ファーストシングルカット曲。イントロのチープさにはびっくりだが、曲後半の唐突な転調がものすごく爽やかで、この転調部分だけでもどんぶり飯3杯は行ける。

4.When I Get Famous
このテの曲調はブライアン・セッツァーか、ハリー・コニック・Jrあたりが素晴らしくハマっていたのだが、ジェイミーもいつの間にかこういうのに違和感が無いくらい貫録が出てきた。けれん味溢れるビッグバンドロック。後半サビのリピート部分にいつまで経ってもベースが混じってこないのが切ない。

5.Love For $ale (Feat. Roots Manuva)
ラッパーをフィーチュアしてスプリングリバーブで遊んでるだけの曲。

6.Pure Imagination
ジェイミーのバラッドはアルバムを出すごとにどんどん深みを増して行く。まだ30代の前半のはずなのに、このやるせなさはどうだ。

7.Anyway
ブリティッシュポップスが好きな人には馴染み深いテイストなのではないか。逆に言うともっともジャズやファンクからは遠いサウンド。

8.Sad, Sad World
こちらも物悲しい魂の歌。どうでもいいけどサビのヴォーカル(Oh~ Oh~)とコーラス(Yeah~Yeah~)が合ってないのはどうして?

9.Take Me Out (Of Myself)
Track1と同じ理屈で作られた曲。ジェイミーお得意のピアノリフ。野外のロックフェスなんでは盛り上がるでしょうね。

10.Save Your Soul
アルバム全体のハイライト。厳かなムードの曲だが、後半部分の盛り上がりはわかっていてもグッときてしまう。アレンジも堂に入っている。ストリングスのフレーズが紋切り型でクスッとしてしまうけど、この曲にはこういう要素が必要。

11.Get A Hold Of Yourself
まるで親しい人に絵日記を見せてもらったような。「こんな大事なものを見せてくれるなんて、自分のことを信頼してくれているんだなぁ」とほんわか思うような曲。

12.You're Not The Only One
まるでハリウッド映画のエンディングのような、荘厳で激しい曲。サビのメロディを(ヴォーカルとユニゾンで)奏でるピアノに被さるヴォカリーズに涙腺を刺激される。この曲をフェイドアウトで終わらせなかった見識に脱帽。
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