暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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高橋督"@1st" エンジニア目線のライナーノーツ

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あるミックスダウンの日

仙台在住のエレクトーンデモンストレータにして友人にしてバンド仲間にして旅プロ仲間。いくつもの紹介フレーズが付いてしまう髙橋督のファーストソロアルバムがようやく完成した。私は「早くやれ!」という係(=エグゼクティヴ・プロデューサー)とエンジニアリングで参加した。音楽的な解説やアルバムを的確に表している言葉は音楽家鈴木雅光と作曲家水沼慎一郎がCDジャケットのために寄せてくれたので、ここではエンジニア目線による備忘録と裏話的なものを書いてみたい。

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疲れ果てているのに
解放してもらえない那須king(Gt)


■概要■
本作「@1st」は、まず髙橋督愛用のDAW、CUBASE上で制作された。プラグイン音源やハードウェアシンセサイザー、本人のホームベースであるエレクトーンで制作された音に、どうしても譲れないパートだけはゲストミュージシャンのプレイをダビングしている。例外が2曲あり、「でんでん64号」「自動車ぶんぶん」は仙台市内のSound Resourceスタジオにて磯村淳氏によってリズムレコーディングが行われた。

CUBASE上で楽器演奏の完結を見た楽曲は、髙橋督本人の手で各トラックが単独でオーディオファイル化され、暁スタジオのDAW、LogicPro 9に移植された。その上で生楽器のオーバーダビングは暁スタジオにて服部暁典のエンジニアリングによって行われた(青木太志のベースと髙橋督の全演奏を除く)。マイクはaudio-technica AT-4040、AKG C-3000、SHURE Beta57を適宜使い分け、マイクプリアンプは、オーディオインターフェイスであるMetric Halo 2882、MACKIE.MZ-1402VLZを使用した。生楽器のダビング終了後、「真心音〜macoto〜」を除く全曲のミックスダウンを服部が行った。

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転調後のハモりフレーズ、譜面を書き忘れていた!
あわてて音符を探す督と「こう?」と
確認する黒瀧英一郎氏(Vl)


■レコーディングフォーマット■
LogicPro 9上でのフォーマットはサンプリング周波数48kHz、量子化ビットデプスを24bitとした。これは高音域の解像度向上とダイナミクスを少しでも犠牲にしないことを念頭に、マシンスペックとのバランスを見ながら決めたもので、暁スタジオのデフォルトフォーマットである。Sound Resourceで録音された2曲は44.1kHz/16bitである。これはCD化に際するダウンコンバート時の音質変化を嫌った磯村さんの見識で、他の曲もこれに倣うべきかずいぶん迷ったが、前述のとおりとした。Sound Resourceのような電源やワイヤリングにきちんと配慮された商業スタジオでの44.1/16ならともかく、それら環境が劣る暁スタジオでは録るタイミングで欠落は少なくしたい。となると一回り大きな受け皿(48/24)で収録する方がまだ結果が良いのではないか…と思っている。

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どんどんアイデアを注入してくれる
頼れるパーカッショニスト斎藤寛君


■ミックスの独自性■
今回のミックスで暁スタジオならではの部分があったとすれば、それはアナログプロセッサーを使ったことだろう。密度の濃いリヴァーブが必要な曲ではSONY R7やENSONIQ DP/4を使用。またほぼ全曲でトータル出力にコンプレッサーdbx 162とイコライザーapsi 559を通している。162はコンプレッションが目的では無く、DAWのエッヂの立った音を丸めると言うか、個々のトラックの隙間を程よく埋める程度の処理である。全くピークを削らず、ただ回路を通しただけの曲もある。559も同様だが、DAWのデジタル領域でのEQ処理だと「狙った帯域だけが処理される」感があるところを、559だと結果的に「周辺の空気感も含めて増減できる」ので、どうしても不足している場合だけ、高音域の微増に使用した。

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フレージングの確認をする督と
イヤな顔ひとつせずあれこれトライしてくれる
山本まりんさん(ケーナとか)


■マスタリング■
服部以外のエンジニアの耳とアイデアを注入したかったので、マスタリングはリズム録りでもご活躍いただいたSound Resourceの磯村氏にお願いした。ファイナルミックスのピーク帯域を見つけ出し、丹念に平滑化。GMLのプラグインEQが心底羨ましかった(笑)。しかる後にアナログ回路を通し…と書けば単純だが、その工程はいくぶん複雑で、その詳細は相変わらず書けないが「やっぱり機材を持っている人の勝ちだなぁ」と再確認した。磯村氏としてもそのプロセシングツールはリーサルウェポン的なものらしく、作業が進めば進むほど督と私の親指は立っていくのだった。結果的にファイナルミックスが持っていたデジタル特有の神経質な繊細さを、腰と張りのある艶やかなサウンドに変換してくださった。

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マスタリング終了直後の
グレート磯村氏とわたくし


■追記■
自分以外の作品を手がけること自体が少ないので、話を引き受けた当初はワクワクよりもビクビクしていたのだが、本作の制作作業は、個人的に得るものがとても大きかった。また自己の作品ではないことが良い方向に作用したのか、客観性を保ちつつ、その曲が求めるものを的確に注入することができたと思う。以下思いつくままに書いてみる。

ミックス初期の段階から、幸いなことに私と督の間には曲のできあがりのイメージに大きな差異は無く、作業自体にストレスはほとんど無かった。主にバスドラムに低音域を担わせたい服部と、ベースにそこを任せたい督とで共有イメージの微調整が必要だったこと。そして使用しているDAWが異なることから、作曲作業が終了した段階で各トラックを単独で書き出してもらい、私が使うLogicにオーディオファイルとして移植する作業が面倒くさかったことの2点くらいだろう。

前述したように、できあがりのイメージをすり合わせるのに労力を使わずにすむのはとてもありがたい。とても重要なことだ。私と督の音楽的履歴が似ていることも良い方向に作用したと思う。おかげで作業はとんとん拍子に進んだ。もちろん順調な進行の源には、優秀なミュージシャンの素晴らしい演奏があることは言うまでも無い。今回参加したミュージシャン、エンジニアが如何に真剣に向き合ってくれたかの証でもある。多くは督本人の演奏であるが、ヴァイオリン、ケーナ、サックス、ヴォイス、様々な打楽器、プリアンプからラインで録るギターなど、多彩な楽器と対峙した。服部個人の音楽制作作業ではなかなか発生しない事態なので、本当に勉強になった。

またイメージを共有できた上で、より良い仕上がりにするためのディスカッションも大変心地よいものだった。他者のアイデアを許容しつつ自分のアイデアを如何に認めてもらうか…というやりとりは、少なくとも音楽制作の場に於いてはとても頻度が高く、重要な折衝だ。コミュニケーションの本質的な能力が問われると思っている。精神論的な話のように聞こえて、実は「他者との交渉」という技術論なのかもしれない。今さらにしてそう思う。そしてもちろん、全ての音楽制作作業現場が、このように楽しくエキサイティングなわけではない。残念ながら。だからこそ督の今回の一連の作業は貴重であり、美しいのだ。そして私が音楽に関わり続けようとする意志は、こういう経験によって強固になっていく。感謝。
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