2014.09.24 Wed
高橋督"@1st" エンジニア目線の各曲解説
仙台在住のエレクトーンデモンストレータにして友人にしてバンド仲間にして旅プロ仲間。いくつもの紹介フレーズが付いてしまう髙橋督のファーストソロアルバムがようやく完成した。私は「早くやれ!」という係(=エグゼクティヴ・プロデューサー)とエンジニアリングで参加した。先にエンジニア目線の制作備忘録をアップしたので、今回は同じエンジニア目線による各曲の解説を書いてみる。
飛行機びゅんびゅん
BFDによる打ち込み生ドラムシミュレーションを如何に生っぽく聴かせるか…は、本作品のかなり重要なチャレンジだった。バスドラムだけで3音源など、実際の生ドラム収録後と同じ処理方法を取った。ドラムだけである程度作りこむと、次は「カエシ」中心のスラップベースとドラムのバランスの決定に苦心した。オルガンソロには督本人に確認しないままオーヴァードライヴをかけている。この場面でオルガンが歪まないなんてあり得ない(笑)。全ての打ち込みミュージシャンはこの曲のドラムプログラミングを研究する必要有り。
でんでん64号
レコーディングエンジニア磯村さんの手腕が冴える。実は録音の段階でドラムもベースもある程度アナログ機材によるプロセシングを経ており、作業を後ろで見ていた原音取り込み主義の服部を慌てさせたが、いざミックスダウンに取りかかったらイメージ通りの音に初めからなっており、ほとんどフェーダーを揃えるだけで音楽になってしまった。流石である。
magma
この曲「magma」と「marinescape」がプラグインドラム音源シミュレーション音作りのピークではないだろうか。それも難しかったが、斎藤寛君演奏するジャンベの収録も大変難しかった。打面と重低音が抜けるボディ下部にマイクを立て、バスドラムもかくやの低音収録に努めた。もっともミックスの段階ではある程度削らざるを得なかったが…。しかし斎藤寛君のジャンベと青木太志君のベースが、この曲のリズムのボトムを太くしたのは間違いない。
真心音〜macoto〜
この曲のみ、督本人のミックスである。作曲作業に使用されているDAW、Cubase由来のプラグインがイメージングの前提になっており、敢えて書き出したりしてイメージの再構築に時間をかける必要もなかろう、という判断。作曲の由来から見ても、この選択に間違いは無かった。だがこの曲がより魅力を増したのはマスタリングを経てからだった。アナログプロセシングを施されたプラグインシンセは絶妙にまろやかになり、オーガニックなアンサンブルへと生まれ変わった。
自動車ぶんぶん
でんでん64号と同じタイミングで録音された。ミックスに取りかかったのは「でんでん…」の方が先だったので、ドラムやベースのセッティングはほぼ踏襲した。従ってこの曲のミックスは驚くほど短時間で終了し、しかもテイク1でOKとなった。エンジニアとしてはとても楽な曲(笑)。
雲平線
音楽的にはこのアルバムの拠り所のひとつ。ピアノの音色と空間を埋めるシンセパッドのバランスがすべて。それ故に音色作りとシンセサウンド同士の微妙なバランス設定には大変気を使うことになった。この「微妙な感じ」は作曲者とエンジニアで解釈が異なっており、修正に次ぐ修正と相成った。しかしこの曲は髙橋督の絵心が音に溢れている。私自身もこの曲のファン。
marinescape
山本まりんさんのケーナをマイクで収音すること自体は格別難しいものではない。しかし繊細な楽器だからこそ、録音時のモニターバランス(早い話がカラオケと演奏する楽器の音量のバランス)の設定が難しい。ほんの少しの違いがピッチやフレーズの大きな差になって現れる。エンジニア側の責任もあるが、奏者の経験とコントロールに拠る部分もあり、ぴったりなバランスを見つけるまでは苦戦した(ぴったり来ればあとは素晴らしい演奏なのだが)。しかしそもそもシンセパッドとストリングスアンサンブルが常にせめぎあうエンジニア泣かせの曲。そしてやはり齋藤寛君が演奏するウドゥの処理がとてもとても難しかった。迫真の演奏を如何にそのまま曲の中に存在させるか。修行します。
Brand New Breeze
ミックスダウンの最初期から作業し始め、最後の最後までリテイクを繰り返した曲。ミックスの基本的なアプローチは「飛行機びゅんびゅん」と同じだが、生ドラムシミュレーションでない分この曲の方が空気感は多い。その空気感を維持したままストリングスアンサンブルやギターのカッティングを存在させるのは神経を使う作業だった。
片想ヒ丿行方
バラッドと来ればたっぷりのリヴァーブ…というのが服部の常套アプローチだが、ドライな仕上がりを望む髙橋督から容赦ないボツを喰らってばかりいた。アコースティックギター、ピアノ、ストリングスアンサンブルと、同種の役割を担う楽器が3種もあり途方に暮れたが、最終的には繊細な音運びのストリングスアンサンブルを中心に据えて、とにかくフェーダーカーブを書きまくった。
桃源郷
ひとりDAW多重録音で陥りがちなのが、「頭の中に鳴っている音は全部突っ込む」というヤツである。曲を何度も多角的に再考できるからこその現象なのだが、アレンジ的観点から言うと破綻してしまうことが多い。つまり音が多すぎるのである。この曲もそうなってしまい、素晴らしい素材だったが泣く泣くミュートしたパートがいくつかある。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。
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| レコーディング | 17:04 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑
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| | 2015/10/24 19:51 | |