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暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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ハードウェア原理主義宣言

リットーミュージック社の雑誌「Sound & Recording Magazine」2014年9月号によると、Dreams Come Trueのアルバム「ATACK25」では、制作にハードウェア音源が大量に使われたという。Logic ProXでMIDIデータを作成し、ProToolsでオーディオレコーディングしていったとのこと。正面切って書かれてはいないが、「プラグイン音源全盛のこの時代にハードウェア音源ばっかり!」的な記事であった。実際記事の写真を見るとパラノイア的な品揃えではあった(笑)。

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私はもう数年前から、「ハードウェア音源は無くならないだろう」と思っていた。なぜなら、シンセサイザーを代表とする電子楽器には、演奏と同じくらい「機械操作」が重要だからだ。「音を合成する」という行為にはボタンを押したりボリュームやロータリーエンコーダーを回したりする動作が必要不可欠だと思う。人間の生理として必要なんじゃないだろうか。行動と理由がペアになっていないと実感できないという風な。鍵盤を弾きながらフィルターの開け閉め、レゾナンスの量の増減、EGのアタックタイムやリリースタイムを調整する操作は、シンセ弾きにとって得も言われぬ喜びである。

「手を動かす」以外のフィジカル面をみても、ハードウェア音源の特徴はやはりプラスに働いていると思う。ハードウェア/ソフトウェアを問わず、デジタルシンセの音とはD/Aコンバータの音質に大きく依存する(収録されたサンプリング波形の質も大きく影響するが、そのことはひとまず置いておく)。ソフトウェア音源の音質的特徴(ミュージシャンが言うところの「味」)が最終的にオーディオインターフェイスのD/Aコンバータに依存せざるを得ないのに対して、ハードウェア音源はその機種が搭載しているコンバータそれぞれに音質的特徴がある(ただし大ざっぱに言えば機種ごとに特徴があると言うよりも、メーカーごと、というもっと大きなくくりでの特徴だが)。オーディオインターフェイスは性質上どうしたってハイファイに、全帯域をバランス良く鳴らす方向でチューニングされている。また数万円程度から製品があり、安価な製品は数値上の解像度と聴覚上の解像度が大きく隔る場合もある。だがハードウェア音源は内蔵するオシレータ、収録波形が一番かっこよく、魅力的に鳴るようにチューニングされている。オーディオ的に優れているよりも、楽器として優れているかどうかが重要だからだ。従って「あのメーカーのあの機種じゃないとダメ」ということも起こり得る。90年代当時まことしやかに流布された「KORG M1は鍵盤付きよりもラック版の方がコンバータの性能が良い。だからベースに使うならラック版」という都市伝説(?)。同じ機種でもそういうことが起こるのがハードウェア機材の魅力とも言える。

PCとオーディオインターフェイスを含めた周辺機器一式揃えても20万円程度。デジタル音楽制作を始めるハードルは低くなった。筆者のような80年代からその道に足を突っ込んでいる者からみれば、そんな金額はもはやハードルとすら呼べない。つまりその気になれば誰でもデジタル音楽制作ができるようになってしまった。そんな今でも、いや、そんな今だからこそ、他者との差異化には投資が必要なのだ。ハード/ソフトを問わず、良い音源は高価だ。その上でハードウェア音源は「楽器を置く場所」が必要になる。1〜2台ならともかく、日本の住宅事情では中々ハードルが高い。一方ソフトウェア音源はインストールするだけでなく、D/Aコンバータたるオーディオインターフェイスも高価なものが必要になる(何事もバランスですから)。湯水のようにお金を使える人はともかく、高価なプラグイン音源と高価なオーディオインターフェイスを揃えるのはハードルが高い。

ハード/ソフト双方とも、他者と差異化を図るにはハードルは高いと思うのだが、最初に書いたように、最終的に楽器を弾く喜び、音を作る操作をする喜びをより濃厚に味わえるのはハードウェア音源である。そのことに今多くの人が気付きつつあるのだろう。アナログシンセのセレブであるMoogやDave Smith Instulmentsのシンセくらいになると、単にボリュームをいじっているだけで気持ち良くなれる。あれは大したものだ。本当はハードウェアシンセもそれぐらいの愉悦を提供できるものが増えないと、単なる場所取りと思われるだけで終わってしまう可能性があるのだが。
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