暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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Heuristic Orchestra/Matt2より4 Tracks EP:メロディではなくフレーズ

私はメロディのある音楽を好む者であるが、世の中にはそうでない音楽、それらを愛好する方も数多くいる。ほぼ40年間メロディのある音楽を愛好してきた自分ではあるが、「メロディ」というものは意外と自己主張が強いことにようやく気がついてきた(だから魅かれるという面もあるのだろうけど)。その自己主張が音楽への没入の邪魔をするケースもある。


「メロディ」がなくても心地よいものは心地よい。それをさりげなく教えてくれたのがMatt2君の作品である。GON and The Family Soulというバンドで知りあったばかりのMatt2君だが、最初のリハーサルが終わったあと「聴いてみてください」とそのCD-Rを手渡してくれたのだった。女の子からラブレターをもらうことの次に、こういうのは嬉しい。聴いてみると、メロディとアレンジの細部に神経を張り巡らせるような作風というよりは、フレーズがフレーズを呼び、その化学反応をリアルタイムで楽しんでいるような、子どもがおもちゃで遊んでいるような感覚を呼び起こすものだった。とは言うものの、行き当たりばったりでもなく、フレーズとフレーズの化学反応はリスナーの気持ちを昂ぶらせるために、充分練られているし、音楽に入り込んで昂ぶった気持ちは音楽がちゃんと受け止めてくれる安心感のようなものもちゃんとある。

ミニマルとかフレーズサンプリングの横軸並べみたいな作品は、共鳴できれば心地よいけど、1曲の中に気持ちのピークが来るような付き合い方ではない、と思っている。なのにMatt2君の奏でる音は、ありきたりな言い方だけどドラマティックだ。耳をそばだてて聴いてみると、どうやらリズムの組み立て方にその秘密があるように思う。定型のキック4つ打ちではなく(そういう瞬間もあるけれど)、肉体の匂いがしない理知的なドラムパターンとベースが、作品の中で立ち位置を変えつつ、時に牽引役になり、時に伴走者となり、作品中で存在感を発揮する。

ややエッヂの立ったシンセの音色たちも、よくあるアトモスフィア系だったりエアリー系だったりするエレクトロニカのような音楽とは違って、妙に人間くさい。ハードもプラグインも分け隔てなく使っている印象があるが、どの音色もオシレーター勝負というか、そのシンセの一番おいしいところを使ってあげている感がある。音の並びには病的なクオンタイズをかけていない瞬間もあり、こうやって要素だけ書き連ねて行くとまるでオーガニックな印象に思えるかもしれないが、前述したように、トータルの印象はシンセで子どもが無邪気に遊んでいるような、(幼児性と言うのは語弊があるので)純粋なアドレナリン作用が音楽から伝わってくる。

無邪気さこそあれど、Matt2君の音楽が行き当たりばったりで生まれたものだとは思えない。恐らく推敲に推敲を重ねたのだろうなぁということは、一度聴けばわかる。シンプルなフレーズで音楽を織りなすためには、およそ無駄な要素は返って目立つと思う。Matt2君の音にそういう蛇足や中途半端な要素はない。

ちなみに今回私がプレゼントされたのはプレリリース版らしく、最終的に「Heuristic Orchestra」という作品に昇華されたという。こちらをぜひ。

bandcampなる配信サイト
https://matt2witter.bandcamp.com/album/heuristic-orchestra

Amazonでも買えます
https://www.amazon.co.jp/Heuristic-Orchestra-Matt2/dp/B01JF3A2WI/ref=sr_1_2?s=dmusic&ie=UTF8&qid=1470023206&sr=1-2-mp3-albums-bar-strip-0&keywords=Matt2

Soundcloudアカウントはこちら
https://soundcloud.com/matt2witter

考えてみれば、メロディとハーモニーでドラマを作るのは、知識やコツが掴めてくればやれなくはない。だがフレーズという、メロディよりも小さな音の塊で、心地よい時間とドラマを作るには、知識やコツもさることながら、「快・不快」を正しく聴き分ける能力が必要だと思う。その意味でもMatt2君は耳が良いのだ。こういう作家と知りあえたことは、私にとってひとつの財産である。
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