暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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チックコリアソロピアノコンサート

自分は決してチックコリアの熱心なリスナーではない。むしろその手の音楽を志向・嗜好している人間としてはほぼ聴いてない人だと思う。その理由は単純だ。「よくわからない」からなのだ。幼稚園児が大学の講義を聞いてもチンプンカンプンなのと同じ理屈だと自分では考えている。これには色々自分の中でフクザツな思いがあって、詳しくは書かないが、同じ鍵盤楽器奏者としての劣等感というのが最大の理由。書いてて恥ずかしい。でも嘘ではない。小さい人間なんです、はい。

それでも昨日2010年12月15日に開催されたチックコリアソロピアノコンサートに出かけたのは、最近自分へのインプットを怠っていると感じていたからである。もう自分の中の音楽的財産の貯金はすっからかんである。「藁をも掴む」的な心境とも言える。ただ40歳も過ぎると、そのインプットも何でも良いとは言えなくて…。作り手の「こんなもんでいいでしょ」的な下心に気付いてしまうと、必要以上に嫌悪感を感じてしまうという心情もある。書いてて何様なんだという気がしきりにしているが、嘘はついていない。仕方ない。

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※以下コンサートの内容を主観的にリポートするが、演奏曲目などネタバレがあるのでご注意いただきたい。






自身の中で未消化な劣等感みたいなものを抱えたままコンサート会場に行った。開演して最初の30分はそういう心中のフクザツなあれこれを気にしてしまっていたが、チックが「ワルツ・フォー・デビー」を弾きだしたらグッとリラックスできた。そこから先はただただチックのピアノに身をゆだねるのみ。一音逃さず神経を集中!という感じではなく、むしろ油断すると居眠りしてしまいそうなほどリラックスして楽しめた。

と言うのもチック、頻繁にMCを入れるのである。ピアノもホールもお客さんも今夜は素晴らしい、と何度もジェスチュアを交えて語りかける。本来はピアノトリオでの来日であり、その合間を縫ってのソロピアノツアーであるから、おそらく本人もリラックスしていたのだろう(実際観光もしたいし、みたいなことを言っていた)。特に前半のスタンダードナンバーを切れ目無く弾く様子は、上手な弾き手が楽しんで演奏している感じが伝わってきて、それもリラックスできた要因だと思う。

リラックスとか楽しんでと書くと誤解されそうだが、演奏内容そのものは決してそうではなく。当然だが。チックお得意の手癖的フレーズから、電気系生音系含めてバンドでの演奏ではあまり出てこないであろう高密度の早いパッセージから、ブルーノート多用の手垢の付いたフレージングまで、とにかくアイデアのつるべ打ち。それも必要最低限の筋肉の動きで最大の音を出している様は、表向きは気さくだけどまさにジャズジャイアント。その凄さはお隣の銀河の超新星と言う感じだ。何十光年離れていても肉眼で目視できちゃいます!みたいな。

15分の休憩をはさんだ後の後半では、冒頭に「今夜はみなさんを僕の練習室にご招待します」と言って、ロシアの作曲家スクリャービンの曲を演奏した。大好きな作曲家なんだそうだ。自分は初めて聴く曲だったが、なんだかチックの新作と言われても信じてしまいそうな雰囲気の曲だった。この曲をクラシックピアニストの演奏でも聴いてみたいと思った。この演奏の冒頭でいったん鍵盤に向かったのだが、「お!いかん」とつぶやいて、外してピアノの後ろに置かれていた譜面たてを自分でセットしていた(笑)。おそらく本当は休憩時間中にスタッフがセットしておくべきだったんだろう。もし「練習室」という演出なんだとしたら大したエンターテイナーだ。何曲かスクリャービンを演奏した次は、やはり譜面を広げながら自身の金字塔的作品「チルドレンズソングス」を演奏。観客のテンションも(表面上は穏やかだが)どんどん上がる。1曲終わるとワッと大きく拍手をして、すぐに止む。早く次の曲も聴きたいが、チックに「すんげー良いよ!今の!」と伝えたくなってしまう。

そのチルドレンズソングスで本編終了。当然アンコール。なんと、スペシャルゲストとして奥さん(ゲイル・モラン)登場!「30年以上(38年だったかな)佳き妻であり友人」と紹介していた。彼女のMCにもやはり人柄が表れていて、曲の紹介も丁寧にゆっくりしゃべってくれる。「マイルズの演奏で有名になったこの曲…、ある少女の、夢について歌った曲なんです。・・・。あぁもう!私が日本語が達者だったら良かったのに!」。そして始まったのが「いつか王子様が」。もうね、なんだか、チックさんちのホームパーティにお呼ばれしたみたいですよ。ふたりの出す音は本当に一体となった、阿吽の呼吸でグルーヴしていて至福。当たり前と言っちゃ失礼だけど、チック、歌モノの伴奏もうめぇなぁ。どうするとこうなるんだ?ゲイルの声は年齢を重ねてむしろ少女のような初々しさだ。ハイノートのロングトーンもただただ心に染み入ってくる(モニターが万全じゃなかったのか、演奏後笑いながらちょっと首をかしげていたが)。盛大な拍手。「じゃあもう1曲ね」と今度はちょっとゴリゴリしたピアノリフでアンコール2曲目がスタート。ゲイルも「え、そんな始め方?」みたいにニヤリ。彼女が歌いだしてみれば「サマータイム」であった。もうね、オレたち(観客)をどうしようっての??という感じで、実はちょっと涙ぐんでしまった。サマータイムって自分にとってはジャズの入り口みたいになった曲だったので。

演奏が終わりふたりで仲良く退場。でも拍手は鳴り止まない。とうとう2度目のアンコール。「今回日本に呼んでくれたジュンさん(誰?イベンターの人?)がどうしてもやれって。彼に捧げます。ホントに、今夜はこれでおしまいだよ」というMCに続いて始まったのは「スペイン」。イントロ、ルバートのインプロヴィゼイションの中に例のフレーズが現れた瞬間に観客からはどよめきと大きな拍手。そりゃそうだよな。どんなに屁理屈をこねたって、やっぱり本人の演奏でスペインが聴けたら嬉しいじゃないか。ゲイルのヴォーカル入りでお得な感じ(笑)!当然あのリフでは会場から四分音符の手拍子。曲後半ではチックが弾いたフレーズを観客に歌わせるパフォーマンス。スペインが終わると観客は自然にスタンディングオベーション。チックは何度も観客に向かって両手でサムズアップ。なんだ、チックってすっごく良い人なんじゃん!

研ぎ澄まされていながら柔らか。豊満でありながら体脂肪率10%前後。饒舌にして過不足無し。しかも良い人そう。本当に聴いて良かった。聴いただけで鍵盤がうまくなるならいいのに(笑)。

会場には本当にたくさんのミュージシャンが訪れていた。もう5分に1回は挨拶している感じ(笑)。服部の心の師匠IながきさんもSかきばらさんもいらっしゃったし茄子王もいらっしゃったしIがり君もいたしCばさんとはようやくご挨拶できたしMずぬま君もいたし(ちっともしゃべれなかったが)親友あにまる君もいたし…。他にもたくさんの友人知人と会った。こうやって書くと、やはりチックさんちのホームパーティにみんなでお呼ばれ、と錯覚してしまいそうだが、それもこれもチックさんのお人柄によるものだろう。

今回はベーシスト黒瀬君にチケットを譲っていただいた。多謝。ブルーノート東京でトリオを鑑賞すると言っていたNめかた君がうらやましい。
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| こんな音楽を聴いた | 18:49 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

素敵

ゲイル・モランまで登場していたなんて!
ああもう、本当にうらやましいです。
素敵なレポートをありがとうございます。お楽しみだったことはとにかくよくよく伝わってまいりました(笑)

| もとぎ | 2010/12/16 23:18 | URL | ≫ EDIT

さすが・・・

同じピアニスト、リポートの質が高い。わたしゃ2回目の生チック。今回はかなりじっくりチックの手が見えて満足。以前は武道館、ハービー・ハンコックとのデュオのときだもの豆粒にしか見えませんでした。

| queiko | 2010/12/16 23:34 | URL |

僕も会場にいましたよ。
ゲイルモランとのDUO。
本当に良かったですね。
いままでかつて耳にしたことのない
掛け合いを目にして「どきっ」としました。

もちろんソロ演奏も大変素敵でしたけれども。

| くろくろ | 2010/12/17 00:44 | URL |

◇もとぎ様
隠しておけない性格なんです(笑)。今回自分はラッキーでした。

◇quieko様
ご無沙汰しちゃってました。オレはいつ以来かな…。
下手すると1984年のエレクトリックバンド(in Live under the sky)以来かも。
これだけ間が開くとチック自身の人間的熟成がすごくよくわかります。
贅沢を言ってることは承知のうえですが、もう少し小さいホールで
聴きたかったなぁ。

◇くろくろ様
ああ!お目にかかれず残念!

予想以上に密度の濃いソロ演奏でしたよね。アイデアでパンパン
なんだろうなぁ、頭の中。それでいて遊び心もあり…。

自分にとってひとつの指針になるようなパフォーマンスでした。

| はっとり | 2010/12/17 08:52 | URL |















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