2011.04.19 Tue
低音域をどう調整するか
デジタルメディアに音楽を記録するようになって、単純に書くとハイもローもアナログメディア時代よりもより増えた。「増えた」と表現すると、わかっている人からは「嘘書くな!」と怒られること承知で極論。ま、とにかくコンシュマーレベルの再生機でもシャカシャカ言うしドンドン言うようになった。それに少し先んじる形で、電子楽器も同じ傾向を持つに至った。従ってシンセサイザーやサンプラー(ハードウェアでもソフトウェアでも)を多用する音楽制作では、音を重ねていくほどハイもローも増えていく。※1
しかしローの持つパワーは強力だ。波形周期の長い低音は物理的にも遮ることが難しい。単純に防音された部屋を作ろうと思うと、どうしても低音は漏れていきがちになる。リハーサルスタジオなどの防音空間でも、たいていのスタジオでは外の廊下にはベースの音はモンモンと漏れているものだ。読者にも経験がござろう。それくらい低音は強い。従って電子楽器を多用して制作された音楽では特に低域の音が過剰になっていく。その低音は結果的にその上に乗っている中域・高域の音の居場所を浸食していく。いわゆるマスキングという現象で、これを放置しておくともっさりしたミックスになりがちだ。
私はミックスダウン(に限らず全ての音響の調整において)の極意は足し算ではなくて引き算だと思っている。※2 最近私は自分のある曲をミックスしていたところ、これまでいかに低音を無秩序に垂れ流していたかを痛感する出来事があった。その曲のミックスを終えてプレイバックしてみた時、「ちゃんと低域をトリートメントするとこんなにすっきりするのか!」と目からうろこが300枚くらい落ちた。
昨年末に仮OKファイルを納品したFourstepsのミックス物件は結局その辺が曖昧なままだったため、「服部さんのミックスだけちょっとハイが落ちているかな、と」みたいな評価を得ていた。愚かにも私はそれを「Logicってそういう音質なんだよなぁ」と責任転嫁していたのだが、まったく、全部、徹頭徹尾それは服部の責任であった(確かにLogicには固有の音質傾向はあるのだが、ハイが落ちるというわけではない)。
低音を「どれくらい生かしてやるか=どれくらい削るか」は重要かつ難しい問題だ。正解がひとつあってそれをマスターすれば完璧という話でもない。ひとつわかったらもっとわからないことが増えた、ということか。

ご覧のように30Hz以下はほぼいない
※1ただし耳に痛いようなハイ成分(5kHzくらいより上)が重要な音色ばかり多用するわけでもないので、ハイの整理はローに比べるとまだやりやすいと考えている
※2主に生楽器が、鳴っているとおりに収録されている場合
| レコーディング | 23:03 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑
こちらにコメントするのは初めてかもです。
自分の場合もミックスする時はとりあえずほぼ全てのトラックにHPFを刺すところから始めます。
低音を処理しておけばその後コンプなどを挟んでも掛り過ぎを抑制できます。
とは言え、いつもセオリー通りに行く訳でもないのがミックスの難しいところでもあり醍醐味でもあるんですがw
| リュウノスケ | 2011/04/20 00:04 | URL | ≫ EDIT