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暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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北田了一さんのピアノをダビングする

服部のニューアルバムに収録する「Best Regards」。この曲はジャジーというかブルージーというか、率直に言えば泥臭い曲である。こういうどっぷりジャズピアノなプレイは実は服部はできないのである。これまで散々自分のこの曲を弾いてきたが、もっとうまく弾ける人がいるよな~と思っていた。

今回のアルバムを作るにあたり、これまでやったことの無い手法にもチャレンジしてみようと秘かに決心はしていたのだが、その一環としてピアニストの北田了一さんに弾いてもらおうと思いついた。と言うと理路整然としているが、考えようによってはかなり無茶である。キーボーディストがピアニストに自作曲のピアノパートを預けるのだから。ラッセル・フェランテがソロアルバムでオスカー・ピーターソンにピアノを弾かせるようなものだ。違うか。でも服部の心情としてはそういう感触がある。だが想像するだけで楽しい。そもそも北田さんに任せれば間違いが無いという確信もある。無茶を承知でお願いしてみたらあっさり承諾してくださり18日に実現した。

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わざとらしい演奏ポーズ(笑)。

今回北田さんに弾いていただくのは生ピアノじゃないと意味が無い。するとどこで録音するのかということが大問題になる。その点今回は救世主がいた。鈴木雅光君である。彼に相談したら「じゃ、ウチ使いなよ。丁度調律するし」とすっごい太っ腹なオファーをいただき、一も二もなくお願いした。本当にありがとう。ということで画像に写っているスタジオはすべて仙台市内某所の鈴木雅光邸である。

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ライヴ会場などでは周囲の音の回り込みを避ける意味でもハンマーぎりぎりまでマイクを近づけるが、結果としてアタックばかりのピアノサウンドになってしまう。しっかりしたタッチで弾く北田さんならそれはむしろ逆効果。部屋鳴りとの兼ねあいも考慮しつつ、これくらいの位置からハンマー寄りの弦全体を狙う。マイクはaudio-technica AT-4040である。少々クセのある音質ではあるが、結果的にこの曲の、今夜の北田さんのプレイを収録するには実にマッチした音質であった。

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横並びの位置にコントロールスペースを作る。MacBook Pro13inchモデル。コイツのOSをLionにアップグレードしたのが全てのつまづき。暁スタジオのDAW、LogicPro7.2.3.はLionでは起動しないのである。これに気が付いたのが全日の夜。そう、まさに旅プロセッションの直前であった。とほほ。

無い知恵を絞った結果、起動にはPowerMacG5の音楽用システム(10.5.8.)のクローンを使用。これなら確実である。750GBのHDDを2パーティションで運用中。すなわち「音楽用クローンシステム/録音用」である。まさにうってつけ。USB2.0接続。

オーディオインターフェイスでもすったもんだがあったのだが割愛。結果的にS師匠から偶然にMetric Halo ULN-2をお借りすることができ、システムは実にシンプルに組めた。しかも高音質。すばらしい。

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北田さんのプレイはすばらしかった。及川文和君のドラムと北田さんのグルーヴのかけ算。打ち込みオンリーのガイドデータに及川君のドラムをダビングした時もグルーヴが太くなった!と実感したが、北田さんのピアノはそこからさらに曲全体をドライヴしている。揺らぎというか、太さというか。人間が生演奏する意味はここにもある。音色変化や音量変化は人工的に随分精緻なコントロールができるようになってきた。対応する音源(ハードウェア/ソフトウェアを問わず)の深化も目を見張る。しかし音楽的に有効なグルーヴの揺らぎを打ち込みで再現するのは今でも難事業だ。時間と手間ひまをかければ確かにある程度達成できるが、北田さんと及川君のように30分でここまで音楽的な揺らぎを生み出せるかと言えば答えはノーだ。

こういうマジックを音楽に取り込みたいからこそ今回たくさんの仲間たちに演奏をお願いしている。自分の音楽に彼らのような素晴しい才能に関わってもらえるのは幸せ以外の何ものでも無い。

毎度のことながら、録音終了後の北田さんとのおしゃべりの間にもたくさんのヒントと叡知をいただいた。
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| レコーディング | 00:49 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

大変楽しく、また刺激的な時間をありがとうございました。
ある意味まな板の上の鯉状態ですね。
同じベクトルを向いた録音だったように思います。

鈴木さんにも感謝ですね。

後の調理はおまかせします。

| りちあど | 2011/08/19 07:34 | URL |

◇りちあど様
さ、さりげないプレッシャーが(笑)。

本当にありがとうございました。ただDAWの画面を見ながらにやにやしてるだけで良いという、稀有なレコーディングでした。同じ方向を向いているという感想を持っていただけたら服部としてこれ以上嬉しいことは無いです。

みなさん!北田さんのピアノはグルーヴというよりも「ドライヴ」。周囲を巻き込む力が渦巻いている感じ。だけど「待つ」「聴く」「(極端に言えば)弾かない」というプラスに対するマイナスのベクトルも内包してるんです。ピアニストとして、と言うよりも楽器演奏者として必要な視点と感性が山盛りですよ。

それでいて北田カラーというのが確実にある、という…。

宝石の原石をいただいたので、かる~く研磨してみなさんにお聞かせします。

仮ミックス、少し待ってください。後日お送りします。

| はっとり | 2011/08/19 09:03 | URL |















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