暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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KORG KRONOS本気リポート・音源編

高橋督より預かっているKORG KRONOSの本気(と書いてマジと読む)リポートの今回は音源編。だが想像以上に難しかった。長文を読みきるのが面倒くさいという方のために箇条書きで最初にまとめておくと

・高機能D/Aコンバータの恩恵による高解像度の出力
  =音が良い
・PCM音源に加えてヴァーチャルアナログ/デジタル音源の搭載によるシンセ系音色の全方位的網羅
  =シンセ系の音ならどんな音でも出せる
・音色切り替え時に前着音が途切れずに残り、かつ次打鍵後には後着音で演奏し続けられる
  =ライヴで問題なく使える
・音痩せせずヴィンテージものまで揃えたエフェクト群
  =専用機としてのアドバンテージと楽器としての高完成度

となろうか。以前のレヴューでも触れたが、KRONOSは起動時間がおそろしくかかる。当スタジオでのチェックではほぼ2分。これまでのシンセでは考えられない起動時間という上記環境の実現と引き換えに内包せざるを得ない瑕疵があるにはあるが、それを工夫して補ってでも現場に持ち出したいと思える素晴らしいシンセである。

ちなみにこのリポート、取扱説明書無しに書いている。事実誤認などがあるかもしれないがそこはそれ、ホントに詳しく知りたい人はKeyboard Magazineでも買って読んでください(未確認だが機材レヴューでKRONOSを取り上げていないとは考えられない)。

では項目ごとに書いてみる。KRONOSの出音は2011年発表の最新鋭デジタルシンセとしては当然のことながら良い。単に「良い」と書いても伝わらないので言い換えると、前述のとおり「解像度が高い」と言える。これはそもそものサンプリングされた元波形が良質であることに加え、その波形を出力する段のデジタル信号をアナログの電気信号に変換する部品=D/Aコンバータの性能が良いからであろう。初めてKRONOSを試奏したのはYAMAHA仙台店の店頭で、スモールパワードモニター経由であった。決して十全な環境ではないが、逆にそういう環境ですら他のシンセとは明らかに違って音が良い!と思わせるところがすでに非凡である。

ただし低域が特にブーミーである点は注意が必要だ。暁スタジオでのチェックはヘッドフォンSONY MDR-7506でモニターしているが、それを差し引いても、である。アコースティックピアノなどはまだ良いが、エレクトリックピアノやベース系(生・シンセを問わず)、デジタル系(デジタルシンセのレポートでこういう言い方もヘンだが)パッドなど、迫力満点過ぎて心配したくなるレベルである。特にベース系プログラムではローがぶんぶん言い過ぎて、音色を性格付けている高域までマスキングぎみなのにはちょっと驚いた。

余談だがここ10年くらい、国内楽器メーカーのデジタルシンセの出音のドンシャリ(高域と低域が強調された音)傾向は留まるところを知らない。おそらく楽器メーカーとしてはオケの中でのヌケの良さとか、楽器店店頭での試奏時に目立つこと(足元に置かれたキーボードアンプでモニターしても煌びやかな音に聞こえるような…)を念頭に音質をチューニングしているものと想像するが、悪目立ちになりかねず、音を出す立場の者としては色々注意も必要だ。KRONOSの出音は「とにかく騒がしい環境で目立ってナンボ」という荒っぽいものでは決してないが、PAでもレコーディングでも繊細なEQ処理が求められることは間違いない。とは言え高級感あふれる良識ある音である。

次に音源そのものについて。デジタルシンセ黎明期を知るシンセマニアとしては驚くしかないのだが、KRONOSには複数のデジタル音源が搭載されている。通常のPCM音源とヴァーチャル音源である。そのヴァーチャル音源も、そもそもDAW用プラグイン音源としてリリースされていたものと同一らしく、MS-20、Polysixと言った感涙失禁もののレガシィアナログシンセや、DW-8000という今思えばデジタルアナログのハイブリッドシンセや、デジタルの元祖のひとつと言えるFM音源なども含まれ、各プログラム(音色の最小単位)に付きこれら音源が2系統同時使用ができる。つまり生ピアノにDWの波形を立ち上げ、片方だけでパッドの音色にエディットし、それを重ねたものを1音色としてプログラムできるのである。これは銘機M1も踏襲していたKORGの伝統的な構成だが、音色の最小単位で複数波形のレイヤリングができるというこの方式は、エレピのアタックにだけ金属音をレイヤーするとか、アタックとサスティンで発音波形をクロスフェードさせるなどの使い勝手があり、感覚的にかゆい所に手が届く方法だと思う(単に私に馴染み深いだけとも言えるが)。

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PCM波形のレイヤリング例。ま、珍しいものではない

内臓ヴァーチャル音源はサンプリングの質に左右されるPCM方式とは根本的に異なり、オリジナル機の回路動作を演算で再現している模様。従って(D/Aコンバータの音質に左右されるという決定的な枷はあるものの)非常にリアルで、かつクリアな音なのだ。MSにしてもDWにしても、今実機を持ってきてもそのノイジーさや音質のまろやかさに手を焼く場面もあろう。ノイズレス、完全動作、必要十分な高域・低域を持った音質。しかも電源スイッチを入れれば即使用可能という使い勝手と安定性は、PC上のDAW+プラグイン音源では到底太刀打ちできない(Appleの「メインステージ」などというソリューションも出てきてはいるが)。KORG POLY-61でシンセ歴をスタートさせた私に言わせればこれはもはやミラクル。素性の良いPCM音源と組み合わせ自由なヴァーチャル音源の同時搭載というKRONOSのパッケージコンセプトは、冷静に考えればデジタルシンセの今後の方向性としてこれしかあるまい、と言いたくなる。

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わかりやすい例として。PCMピアノにPolysixEXをレイヤリング。これだけじゃなく…

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PolysixEXにMS-20EXをレイヤリング。昇天

もう少しだけ波形やプログラムの印象を書いてみる。前述したように解像度が高い上にヘッドフォンでモニターしているので、特にエレピ系での「ハンマーが金属棒を叩く瞬間のノイズ」や「離鍵時のノイズ」がちゃんと再現されていることに驚く。最終的にはオケに埋没する音要素ではあるが、こういったディテイルが音楽や作曲作業にもたらすものは思いの他多いのである。当然そういうディテイル再現のためのサンプルデータは膨大になると思うが、KRONOSは記憶媒体にSSDを使うことで容量と速度を解決している。

最後にエフェクトについて。まずトータルにかけられる空間系エフェクト、取り分けリヴァーブの高密度感はさすが。KORGは以前にもシンセのエフェクト部分と思われるリヴァーブやディレイを単品売りしていたが、そういう伝統を感じさせる音質である。だがもっと突っ込んで書きたくなるのはインサートエフェクトとしても使えるヴィンテージエフェクタのシミュレートである。MXRのPhase90やSMALLSTONE、果てはCE-1などモジュレーション系は悶絶もの。これも音源同様回路演算されているようだ。方式はどうあれこれらのモジュレーション系をかけても音痩せしないのがすばらしい。実機ではヘタすると音痩せしてしまうことすらあるので(それが味でもあるのだが)、これも精密シミュレーションの恩恵と言える。リチャード・ティーやジョージ・デュークなど、にやりとする名前が織り込まれたエレピプログラムは「弾ける人ほど」得するすばらしい出来。一時期Rhodesのパテントを所有していたRolandがPCMエレピの王者だと思っていたが、KRONOSのエレピはRolandに真っ向勝負できるクオリティで、しかもそれはKRONOSのほんの一面でしかないのだ。

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おお!

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おおおおおお!!

以上音源から見たKRONOSについて書いてみた。率直に言ってここまでやるのか!と思う。自動車で言えば高性能ラクシュアリーカー、料理で言えば高級料亭といった趣である※。その印象の源は大容量データのスマートな処理によってもたらされていると言える。今後RolandやYAMAHAがどのようにデータ大容量化に取り組むかはわからないが、正直これは楽器というよりもコンピュータである。似たような機械としてカーナビゲーションシステムが思い浮かぶ。KRONOSは単機能(音色呼び出し・エディット・演奏)に特化したパソコンなのだ。

※ただしオープンツーシーターのハードコアスポーツカーのケイターハムとか、頑固職人がにぎる超絶おいしい寿司屋などとは少し違う。そっちはモーグやデイヴ・スミス・インストゥルメンツなどの巨人がすでにいる。
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