暁スタジオ レコーディング日記

ミュージシャン服部暁典によるレコーディング、ライヴ、機材のよもやま話

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機材でわかる!「春は馬車に乗って」公演・杜劇祭2012

杜の都の演劇祭プログラムB「春は馬車に乗って」、無事に全ての公演が終了した。公演の感想や各出演者の方々についてはオフィシャルブログ「稽古場日記」に記そうと思うので、本エントリーでは機材的な観点から書いてみる。

今回使用した楽器はいくつかあるが、終止向かっていたのはYAMAHA S90XSである。このシンセにした理由は「88鍵であること」「演奏はピアノの音色がメインであること」が大きい。この朗読劇の音楽は稽古場に入ってから徐々に練り上げられていったものであり、事前に演出家と挿入ポイントや具体的な曲調を打ち合わせしたわけではない(唯一テーマ曲的なものは事前に作っていたが)。従って稽古の段階から広い音域と、割りとどんな音色でもすぐに出せるシンセが必要だったのである。結果的にピアノの音色ひとつでこなせる内容であったが、シンセサイザー弾きの矜持としてシンセパッドで演奏する曲を作った。

2012.04.01.追記:S90XSの拡声はRoland KC-300で行った。和室で、しかも手元を隠すための屏風の陰に設置したので、ややハイ上げ、かつローをカットしてヤマハのピアノサンプルのクセに合わせた。

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演奏家ブース全景

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演奏者から客席を見るとこんな感じ

もうひとつの重要な楽器は鍵盤ハーモニカである。これは共演の松崎太郎さんから「この場面では単音系がいいんじゃないかなぁ」というご提案をいただいて決心した選択である。そもそもシンセサイザーで演奏している途中に鍵盤ハーモニカなど持ち出そうものなら、目立ってしまって仕方ない。それほどまでに電気的拡声をしない生楽器の個性は強いわけだが、悪目立ちになるんじゃないかと心配だったので敢えて封印するつもりだったのである。

だがシンセサイザー、それもPCM系シンセの単音なんて、20畳程度の和室で生声で勝負している役者と対等に張り合うなどとうてい敵わない。鍵盤ハーモニカはある意味必然だったのかもしれない。実際役者陣からもこの選択は好評だったし、スタッフからも声をかけていただく程だった。

使用したのはHAMMOND44。この場面で自分の中にあったイメージは夜のニューヨークのゲットー、それも古びたビルの非常階段でむせび泣くテナーサックス(笑)だったので、割りと低い音域が必要だったための選択であった。当然駆け上がって行くフレーズなんかもあり(書いてて恥ずかしい)、「やっぱ買って良かったな、こいつ」などと悦に入っていたのだが、思いがけない弱点もあった。このHAMMOND44、ピアニシモがとても難しい。流石ピックアップ内蔵のブイブイ系だけあって大音量でもピッチがそれほど狂わない(鍵盤ハーモニカは強く息を吹き込みすぎると音程が高くなってしまう。どんなに盛り上がっても適正な息の量を吹き込む自制心が必要なのだ)。だが役者の生声、しかもものすごく抑制した声量でのセリフまわしにかぶさる演奏としては「消え入るような、でもしっかり鳴っている演奏」しかない。のだがこの音量でのコントロールが存外に難しい楽器だったのだ。そこで最終日だけHOHNER Melodica36に変更してみたところ、こちらは音色変化も含めてドンピシャ。もっと早く試してみれば良かった。

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手前がHAMMOND44、その上がMelodica36

さらに一ヶ所しか使わない究極の飛び道具、フィンガーベルも使用した。これは友人鈴木雅光からの借り物。感謝。肺病で死に向かうだけの妻の看病を続ける主人公に、医者が「わざわざ」その妻の死期を宣告する場面。「はぁ」と気の抜けた返事をする主人公の心象風景として「ちーん」と一回だけ鳴らした。こう書くとすごく陳腐なことをやったように読めるかもしれないが(笑)、そうでもなかったと思いたい。

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これらの楽器を使った演奏が、役者陣からの多大なインプットによって成り立ったことを改めて書いておきたい。また同時に役者陣の演技に大きな影響を与えることができたようだ。それぞれが自立した自覚ある表現者としてアイデアを出し合い、お互いに腹を割って正直に作品を作り上げることができた。観賞する側からすれば当然のことのように思われるかもしれないが、スタッフも含めた表現側の人間がこのように全力かつ公平に関われる作品はそうそうあるものではない。本当にこの公演は全てが素晴しかった。

本作品の4回の公演にお越しいただいた全てのお客様に感謝いたします。そして過不足無いサポートをしてくれたスタッフのみなさん、取り分け出演者4名に付き添ってくれた川村智美さんに多大なる感謝。そして誰よりも、今回この4名を集めてくださったプログラムディレクターの絵永けいさんに心から感謝します。ご病気の快癒をお祈りします。

追記:以前から買わなきゃ…と思いつつ先延ばしにしていたS90XS用のセミハードケースをこの公演のために購入したのは先のエントリーに書いたとおり。実戦投入した結果、やはりひとりで持ち運ぶのは困難であることが判明(泣)。でも24日はひとりで搬入してみた。死ぬかと思った。それ以降は必ず男性に手伝ってもらうようにした。

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